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隕ちた光 2
2008 / 02 / 13 ( Wed )

 もはや存在しない者の話が

 嘗ての世界に埋もれる


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 不老種族にとっての「物心がついた頃」というのは、酷く曖昧だった。
 日々ゆっくりと成長することもあれば、何かのきっかけで急に老け込むこともある。
 白い子供はいつの間にか少女へと成長していた。
 半分以上を森に飲まれて朽ちかけた書庫を塒にして、少女はその日を生きていた。
 書庫には崩れかかった古い本があった。読めないことも無いが、それで腹は膨れない。
 森の奥へ入れば食べられる物があるにはあるが、冬場などはそれでも不十分だった。

 暗闇の中で、少女の金髪は酷く目立った。もともとの住人たちが黒っぽいのだから尚更だ。
 暗い色の外套が手に入った所で、石なり何なりを投げられては傷むのも早い。
 少女は結局、隕ちてくる月光を金髪で照り返しながら走ることになる。

『はっ――石じゃなくて、麦でも投げてくれりゃ良いんだ! そうすれば、二、三日は現れないかも知れねぇぞ?!』
 乱暴に吐き捨てて、森の奥へ身を晦ます。エンジェルは元々、体力のある種ではない――尤も、当時はその比較対象さえ知れなかったが――追手の体力も大した事ないとは言え、同種の子供である少女はそれ以下だ。
 下草に、木の陰に、或いは梢に岩陰に、張り付くようにしながら息を殺す。
 小柄なのは幸いだった。隠れる場所は季節を問わず幾らでもあるし、地の利でも分がある。
 大抵の場合、追ってきた人間は諦めて帰っていく。
 元々、豊かな土地なのだ。子供一人が食料を盗んだ所で、それに困ると言う事は無いはずだった。
 それでも、執拗に追われるのは。
『――――』
 人の気配がなくなったのを悟って、少女は身体を起こした。
 陰から踏み出せば、明るい月の光が無遠慮に白い身体を撫でた。
 映し出された短い髪は、切ったというよりは千切ったという感じだ。泥に塗れた上に縺れて酷い様だったが、それでもプラチナに近い金は照り輝いている。
 頼りない貫頭衣から伸びた四肢は、文字通りに「白い」。生々しい傷が無ければ、磁器と見紛う程に作り物めいている。
 羽は薄汚れていたが、それでも眩しいほどに月明かりを反射していた。
 ただ、双眸だけが赤い。血の色より深い、深紅。柘榴石の色。
 瞳を細めて、少女が月を見上げた。自嘲気味に口角を吊り上げると、ちりりと痛んだ。切れているらしい。
『それでも、執拗に追われるのは』
 ――生まれ持った、この姿の所為。
 誰が悪いわけでもない。この姿になったのは少女のせいでは無いし、少女の両親とて我が子をこんな姿に望んだわけではないのだろう。
 単に、運が悪かっただけだ。
 人間とは、弱いものだ。集団としての安定が崩れるのを怖れ、しかしその因子を完全に排斥するには優しすぎる。そして時に、その優しさこそが残酷だ。
 今はもう壊れて読めなくなってしまった何かの本に、そんな事が書いてあったと少女は思い起こした。
 事実、そんな人間を嫌いだとは思わなかった。自分を排斥するものを、積極的に排斥しようとは思わない。
『どちらの方がより哀れで、より愚かなのだと思う?』
 楽なのは、自分の方だろうが……と、少女は月に問いかけた。
 俺が背負う色は、いわば生まれ持った運命に過ぎないのだと。
 しかし、他の奴らが背負うものはどうだろう。数え切れないではないか、と。

 気付いているのだ、奴らも。
 「色」の違いで俺を排斥するのが愚かだということに。
 だが、奴らは「色」によって結束していた。「色」によって互いを兄弟のように思ってきた。
 そうして、「色」に囚われた。
 囚われたから、愚かだと気付いても俺を受け入れることが出来ない。それだけだろう?
 しかし、俺を「色」を理由に殺すことは出来ないんだ。
 そもそも他者を殺める事にこの平和な住人たちが抵抗を覚えないはずも無いし、もとより愚かだと気付いているのだから、それを強行することなど出来はしない。
 だから奴らは、俺が何かを盗むのを許す。
 物取りを捕まえる途中で殺してしまうのも、盗みを繰り返す人間を処刑するのも、大義名分があるからだ。
 だから、俺が何かを盗るのを黙って見ている。俺が逃げ出すまで追いかけてこない。
 それでいて、そんな大義を得るためにしていることさえ愚かだと、それも気付いている。
 本気で追いかけてくることはしない。いや、本気ではあったとしても、迷いはある。
 捕まれば殺されるのかもしれないが、それだけに捕まる確立は実際よりも大分低い。
 ……なぁ、奴らは何をしたくて、俺は何をしたいのだと思う?

 少女は嘲った。

 抱えていた林檎を、軽く拭ってから齧る。
 鉄の味がした。切れているのは口角だけではないらしい。

 先程よりも少しだけ背が伸びた少女は、林檎を齧りながら歩き出した。





言い訳と化した後書き
 文法やら正確な文体やらを気にしながら書いていたら、余韻の響かせ方と文章形式がちぐはぐになってしまい、どうにも直せそうに無くなっていったという悲劇。

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