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その運命が永遠ならば 13
2009 / 12 / 08 ( Tue )

昔描いたシャーペン画が出てきたのに上手くスキャンできないので

いつかの未来の話

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「紋章筆記があれば楽だったんだけどな」
「その点に関しては、嘆いてる人は多いんじゃない?」
 木枠に判子をはめながら、そんな会話をする。間に置いた原稿を確認しながら、二人で少しずつ紋章を組み立て並べていく。実に地味な作業だ。嫌いではないが。
「でも、アビリティは使い手が限られてる。まさか一日中、一年中、書き続けるような物好きは……いるかもしれないけど。ああ、それ逆だよ」
「……ああ」
 紋章を置きなおす。指先に乾きかけのインクが染みる。これは何とかならないものだろうか。
「でも、やっぱりこういう《道具》があった方が、生産性は高まると思うんだよね。一般の人々にも広めたい。これからの世の中、争うための力なんて殆ど必要ないだろうしさ」
 相手は文字列を確認しながらそう続けた。技術者の考える事は深遠だなと言うと、教育者だって似たようなものでしょ、と返された。そうだろうか。
「人が人を育てるのは当然だろう」
「後世に残すために? ……要するに、何かを残したいんだよ。より良いものを残したいんだ。同じでしょ?」
 言いながら、今度は私に原稿を渡してくる。反転した紋章を目で追った。鏡文字を読むのはそれなりに骨が折れる。相手はもう慣れたと言っていたが。
「しかし、よくこんな事を思いついたな」
「ちょっと考えれば分かりそうなものじゃない? 今まで無かったのが、不思議なくらい」
 紋章の一つ一つを判にして枠にはめ、ローラーで染料を塗り、紙を置いて押す。要するに、版画の要領で文章を刷るということ。確かに原理的には単純ではあるのだが。
「今はこんなちっちゃい枠だけどさ。その内、もっと効率よくしてみせるよ。インクを伸ばすローラーも、ハンドル一つで動くようにしてみたいな」
 ローラーを準備しながらそう語るのに、夢のようなことを言う奴だ、と思った。
 こちらも配列の確認を終えて、紙のサイズに合わせた外枠を用意する。枠の外周は一段高くなっていて、ちょうどこの中に紙がはまる。内側には縦横に線が引いてあり、その間隔は判をはめた枠と同じ。つまり、この外枠は一行一行がずれないように使うものだ。
 判に染料が伸ばされる。均一になるように何度もローラーを往復させた後で、楓華風の紙で余分なものを吸い取る。こうしないと滲んでしまうらしい。
 それから判をはめた枠を外枠の中に固定し、紙を乗せる。それからばれんを何度か往復させる。
「この作業が結構面倒なんだよね。別のローラーも作ってみたけど、どうも力が均等にかからない。何かいいアイデアない?」
「……私に聞くな」
 紙をはがす。もう一枚乗せて同じことをやる。またはがす。もう一度。今度は薄い。染料を塗りなおす。
 何度かその作業を続け、同じ文章を刷った紙が五十枚ほど用意できた。この短時間で、手書きでは実現不可能な量だ。感嘆すると、技術者は得意げに笑った。
「凄いことでしょう、これは。ただ、材料を何にするかが問題なんだ。確かにこれで分厚い本を刷れるようになったら素晴らしいけど、その為に世界との共存を蔑ろにするようなことがあっちゃいけない――」
 事実、この《文字版画場》には金属製、粘土製、石製、木製、ウレタン製など様々な判やら枠やらが転がっていた。どれも採集をしすぎると土地を枯らす物だ。採集しても枯れないものなど、存在しないのだろうが。
「その問題を解決する発想は、私には難しい。ただ、蔑ろにするような人間を生み出すまいと努めはしよう」
「ありがとう」
 新しい友人は柔らかな微笑みでそう言った。何故礼を言うのか、という問いには答えてくれなかった。



その内印刷技術は出来るだろうなという妄想。
しかし色々と説明し損ねた。
要するに新しい友人である『技術者』さんが印刷の実用実験をしたいというので、
協力ついでに講義で使う資料を刷ってもらうミラの図。
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